ノズル浸食・再生冷却
Nozzle Erosin & Regenerative Cooling System
ノズル浸食とは、ノズルスロート壁面と燃焼ガスに含まれる酸化物質の化学反応や、アブレーション(熱が加わることで材料が融解すること)、あるいはノズルスロート部への固体燃料の破片の物理的な衝突によって、ノズルスロート部に劣化が生じたり、材料が除去されたりすることです。この、材料が削り取られる様子が、河川などで見られる浸食と似ているため、ノズル浸食と呼ばれるようになりました。この現象によって、ノズルスロート部の断面積が変化し、ロケットの性能低下を引き起こします。特に、当研究室で研究・開発が行われているハイブリッドロケットは、ノズル内を流れる酸化物質が多いため、固体ロケットに比べ、1。5倍から3倍の速度でノズル浸食が進みます。しかし、ハイブリッドロケットにおけるノズル浸食に関する実験的研究は非常に少なく、ハイブリッドロケットの課題となっていました。
当研究室では、2014年の15kN級CAMUI型ハイブリッドロケットの地上燃焼実験で大規模なノズル浸食を観測し、大きな問題となりました。この問題を解決するために我々は、NTRT(Nozzle Throat Reconstruction Technique)法・TTRT(Throat Temperature Reconstruction Technique)法を用いたノズル浸食履歴の獲得や、機構の解明、およびノズル浸食の抑制技術に関する研究を行っており、現在ではこの分野で世界をリードしています。今後は、
(1)ノズル浸食の起こる条件の解明
(2)圧力や温度、ガス組成を変数とした公式化
(3)ノズル浸食の抑制技術
等の研究に取り組んでいきます。
ハイブリットロケットにおけるノズル浸食履歴を得る上で問題となるのは、ノズルを流れるO/F(酸化剤流量と燃料流量)比が非線形に変化する、O/Fシフトという現象です。O/Fは、ノズル浸食量を決める重要なパラメータですが、燃料流量を直接計測することが困難であり、非線形に変化するため、O/Fの時間履歴、およびノズル浸食履歴を同時に取得することができませんでした。
そこで当研究室では、(1)燃焼室圧力、(2)推力、(3)酸化剤流量、(4)燃料消費量、および(5)燃焼後のノズル径の5つの計測可能な値からO/Fの時間履歴およびノズル浸食履歴を同時に取得するアルゴリズムであるNTRT法(Nozzle Throat Reconstruction Technique)を開発し、ノズル浸食の解明に成功しました。またノズル浸食履歴と2点のノズル内部温度履歴を測定し、熱伝導方程式を解くことでノズル壁面温度履歴を得る、TTRT(Throat-Temperature Reconstruction Technique)法の開発も行いました。
ここでは当研究室で提唱されているメカニズムについて説明します。ハイブリットロケットに使用されるグラファイトノズルの浸食は主に二つの工程を経て起こると考えらえています。
(1)ノズルスロート壁面付近とノズル内の主流との間に生じる酸化物質の濃度勾配により、主流からノズルスロート壁面へ、酸化物質の拡散が起こる。
(2)ノズルスロート壁面のC(炭素)と酸化物質が反応して、一酸化炭素として放出される。
このメカニズムから、ノズル浸食は、燃焼の初期段階では化学反応速度律速、燃焼の中期以降の段階では拡散律速になると考えることができます。言い換えれば、燃焼初期にはノズルスロート壁面温度が低いため、Cと酸化物質などとの反応が起こりにくく、燃焼が進んでいくにつれて、ノズルスロート壁面温度が上昇することにより、反応速度も増加します。そのため、燃焼の初期段階ではノズルスロート壁面温度が、その後は拡散する酸化物質の比率に影響を与えるO/Fが、ノズル浸食を決める重要なパラメータになります。