機械・宇宙航空工学部門 熱流体システム分野
エンジンシステム研究室
1.
研究室概要
スタッフ
准教授: 柴田 元
専門分野: 熱工学、エンジンシステム、燃焼工学、次世代燃料
秘書: 荻原 玲美
所属学生: 博士3年:1名、修士2年:2名、修士1年:7名、学部4年:4名
担当科目
大学院: エンジン燃焼工学特論
学 部: 熱力学U、熱流体力学演習U、熱機関学、一般教育演習、機械工学概論、エネルギー工学概論
2.
研究室の目標
エンジンシステムは高効率・高出力で経済性・利便性・信頼性が高いことから現在の人間生活で欠くことできない熱エネルギー変換技術として主導的地位を占めてきましたが、燃焼汚染物質による環境影響や化石資源枯渇問題など、解決すべき数多くの問題に直面していることも否めません。本研究室では、これまでエンジンシステムの排気改善と効率向上、燃料性状からのエンジンシステムクリーン化のアプローチ、次世代燃料利用技術の確立など国内外で注目される研究プロジェクトを推進して参りました。今後はカーボンニュートラル社会実現のためにエンジンシステムの高効率化およびクリーン化はもとより、人間社会に調和した熱エネルギー変換技術を考案し、国際的レベルの研究成果を挙げることを目標としています。
3. 研究紹介
3.1
カーボンニュートラル燃料および次世代エンジンの研究開発
カーボンニュートラル社会を実現するために電動系パワートレインの開発が行われていますが、現在普及している全てのエンジンをモーターに置き換えるのは現実的ではありません。そこで、太陽光による水の電気分解から生成される水素と大気中の二酸化炭素からフィッシャートロプッシュ法により液体合成燃料(e-fuel)を作り、既存のエンジンに導入すれば、温室効果ガスの削減につなげることが可能です。
エンジンシステム研究室ではこのe-fuelの燃焼性能を研究して最適なe-fuelの組成を求め、それに適合した次世代エンジンの開発を目指しています。これまでエンジン実験によりe-fuelがエンジン性能に与える影響を調べ、定容燃焼容器を用いて燃焼中に生成されるスモークの計測を行ってきました。さらに、2023年度からは新たに急速圧縮膨張装置を開発し、圧縮膨張行程を含めたシリンダ内でのディーゼル燃焼を直接可視化観察できるようになりました。図1は急速圧縮膨張装置で、図2は急速圧縮膨張装置で撮影されるOHラジカル発光とすす濃度をKL値で表したもので、燃料A、B、Cで異なる燃焼をしていることがわかります。
現在はオキシメチレンジメチルエーテルによる燃焼期間短縮効果やe-fuelの沸点留分毎の燃焼性を詳細に調べており、今後はインジェクターと燃焼サイクルへの適合を目指していく予定です。
図1 急速圧縮膨張装置の内部構造
図2 急速圧縮膨張装置によるOHラジカル発光画像(上段)とkL値(下段)
3.2
ピストン圧縮改質による温室効果ガスの削減
農場からは温室効果ガスの二酸化炭素とメタンが大量に大気中に放散されています。これを回収してディーゼルエンジンに吸入し、高圧縮比ピストンで最小量の軽油とデュアルフューエル燃焼をさせると、エンジンからは一酸化炭素、水素が排出され、大気中の二酸化炭素を削減できます。この一酸化炭素と水素からはe-fuelを合成することができるので、軽油の代わりにe-fuelをデュアルフューエル燃焼用の燃料に用いれば、このエンジンシステムからは二酸化炭素が排出せずしかもエンジン出力を得ることができます。(図3参照)
現在、エンジンシステム研究室では化学動力学計算ソフト(CHEMKIN Pro)を用いてそのメカニズムと反応条件を調べ、エンジン実験による検証を進めています。
これまでエンジンは二酸化炭素を排出する悪者でしたが、今後はディーゼルエンジンによる環境改善を目指して、研究に励んでいます。
図3 カーボンフリーエンジンのコンセプト
3.3
ディーゼルエンジンにおけるポスト噴射の最適化
ディーゼルエンジンではDiesel particulate filter(DPF)を用いて排ガス中のスモークを濾し取っていますが、ある程度堆積すると堆積したスモークを燃やしてDPFを再生する必要があります。再生には「ポスト噴射方式」が取られていて、ディーゼル燃焼が終わった後に少量の燃料を噴射してDiesel oxidation catalyst(DOC)で生成される高温ガスでDPFに堆積したスモークを燃やしています(図4参照)。ところが、ポスト噴射時期が早すぎるとポスト噴射した燃料がシリンダ内で部分酸化し、DOCに十分な炭化水素を供給できません。一方、ポスト噴射時期が遅いとポスト噴射した燃料がシリンダ壁面に付着し、オイル希釈の原因になります。これまでにエンジン実験と三次元CFD計算(AVL FIRE)(図5参照)により、メイン噴射後のシリンダ内に不均質な温度や当量比の分布を作らないことが有効であることが明らかとなっており、今後はEGR(Exhaust gas recirculation)や予混合圧縮着火燃焼を利用して、ポスト噴射の高効率化を目指した実験を予定しています。
図4 ポスト噴射によるDPF再生運転
図5 三次元CFD計算によるポスト噴射時の温度分布
3.4
改質ガスを用いたガソリンエンジンの高性能化
エンジンの熱効率を向上させるには圧縮比の向上や点火時期の進角が有効ですが、実際にはノッキングにより十分な性能を引き出せていません。
本研究では排気の熱を利用してガソリンを水素や一酸化炭素、メタンに改質し、この改質ガスによりノッキングの際のラジカル生成を低減してノッキングを抑制し、エンジンの高性能化を図ることを目指しています(図6参照)。
これまでは吸気にボンベから水素やメタンを供給して低速ノックおよび高速ノックへの点火時期の進角効果を調べていました。今年度からはエンジンを過給仕様に変更し、エンジンの排熱でガソリンから生成される改質ガスを用いた実験を開始する予定です。
図6 ガソリンエンジン燃料改質システム
4. 主な研究設備
実験用エンジン4台(うち過給エンジン3台)、急速圧縮膨張装置(1台)自動車排気ガス測定装置(堀場MEXA-1600、ベスト測器NBY-401、BEX-5100D)、高速度カラービデオカメラ(40000コマ/秒)、イメージインテンシファイヤー、グリーンレーザ、CAVILUXレーザ、燃焼解析装置、燃焼・流動解析用CFDコード(AVL、 FIRE)、FTIR排ガス分析計(2台)、FFTアナライザーほか