エネルギー環境システム部門 応用エネルギーシステム分野

応用熱工学研究室

 

1.         研究室概要

スタッフ

教 授 小川 英之

専門分野: 熱工学エンジンシステム燃焼工学

准教授: 柴田 元

専門分野:熱工学エンジンシステム燃焼工学

技術専門員: 山崎 賢治

所属学生: M26名、M16名、UG5

担当科目

大学院: エンジンシステム工学特論、エンジン燃焼工学特論

学 部: 熱力学U、熱流体力学演習U、テクニカルイングリッシュ、創造工学演習、一般教育演習、機械工学概論、エネルギー工学概論

   

2.         研究室の目標

 エンジンシステムは高効率・高出力で経済性・利便性・信頼性が高いことから現在の人間生活で欠くことできない熱エネルギー変換技術として主導的地位を占めてきましたが、燃焼汚染物質による環境影響や化石資源枯渇問題など、解決すべき数多くの問題に直面していることも否めません。本研究室では、これまでエンジンシステムの排気改善と効率向上、燃料性状からのエンジンシステムクリーン化のアプローチ、次世代燃料利用技術の確立など国内外で注目される研究プロジェクトを推進して参りました。今後はエンジンシステムの高効率・クリーン化はもとより、人間社会に調和した熱エネルギー変換技術を考案し、国際的レベルの研究成果を挙げることを目標としています。

   

3.         研究紹介

3.1             環境問題とエネルギー問題からみたエンジンの燃焼研究

ディーゼルエンジンでは電子制御噴射(コモンレール)システムの普及により高圧噴射化および多段噴射化が可能となり、予混合化燃焼や低温燃焼といった新しい燃焼法が考案され、従来とはエンジンの性能が大きく変わりつつあります。例えば、図1はディーゼルエンジン内の燃焼過程を特殊な可視化エンジンと高速度カメラを用いて撮影した連続画像ですが、燃料噴射圧力を40 MPa (上段) から150 MPa (下段) に上昇させると燃料噴霧の貫徹距離が長くなり空気との混合が改善されます。この結果、黒煙の濃度に対応する火炎の輝度が低下し(輝度が高いところで黒煙は生成される)、燃焼終盤(45°の写真)では黒煙が消滅していることが解ります。また、最近では均質なガソリンエンジンのように混合気を燃焼室内に形成しディーゼルエンジンのように圧縮着火させる予混合圧縮自己着火エンジンが研究開発されています。このエンジンは熱効率が高く窒素酸化物の排出が著しく少ないことから次世代のエンジンとして大変注目されていますが、エンジンの性能が燃料の組成の影響を受け易くその実用運転領域が狭いといった課題があります。このエンジンでは低負荷においても最大圧力上昇率が高いことから燃焼騒音と燃焼の相関についても調べる必要があります。さらに、バイオ燃料や合成燃料(例えばGTLGas to liquid)といった燃料の多様化がエンジンの燃焼に与える影響も考えなければなりません。このような背景から、応用熱工学研究室では最適なエンジンの運転制御と燃料の組成を提案することを目指してエンジン実験ならびに数値流体力学(CFD)シミュレーションの両面から次世代エンジンの熱効率、排出ガス特性、燃焼騒音といったエンジンの性能を総合的に評価し、地球環境問題とエネルギー問題に貢献できる研究に取り組んでいます。

 

3.2             エタノール・軽油の2種燃料を用いたディーゼル燃焼特性

エタノールは様々な植物から容易に生産できる有望なバイオ燃料です。エタノールは沸点が低く蒸発潜熱が大きいため、空気とエタノールの混合気を圧縮した際の温度は軽油と空気の混合気を圧縮した際の温度より低く、すすや窒素酸化物の生成を従来よりもかなり低く押さえることができます。しかし、エタノールのセタン価が低いため、ディーゼルエンジンにそのまま適用しても、圧縮着火させることが容易ではありません。そこで、吸気管の中でエタノールと空気を予混合してシリンダ内に導き、着火源としてシリンダ内に微量噴射した軽油を用いてエタノール混合気を燃焼させ、2種燃料によるエンジン熱効率の向上と排出ガスの改善を図っています。

 

3.3             燃料性状の適合による予混合化ディーゼル燃焼の熱効率改善

ディーゼルエンジンから排出されるNOxPMの同時低減を可能とする予混合化ディーゼル燃焼(PCCI: Pre-mixed charge compression ignition)が期待されています。これまで種々の燃料を用いてコモンレール噴射系をもつ過給単気筒ディーゼルエンジンの排出ガス特性と熱効率を計測してきたところ、PCCI燃焼ではシリンダ内での燃料の蒸発特性がエンジンの熱効率に大きく影響を与えていることが明らかとなってきました。現在は、特1号軽油(真夏の軽油)や特3号軽油(厳冬期の軽油)などの沸点留分の異なる数種類の軽油と沸点の低いノルマルヘプタンを中心とした炭化水素を用いて、PCCI燃焼に適した燃料の探索を行っています。

 

3.4             HCCIエンジンを用いた炭化水素の自己着火研究

次世代の内燃機関として高効率で低NOx排出である予混合圧縮自己着火(HCCI: Homogeneous charge compression ignition)エンジンが注目されています。HCCIエンジンでは低温酸化反応期間中のラジカル生成過程により着火雰囲気が変化するため、従来のオクタン価やセタン価という燃料の着火指標を適用できず、これがHCCIエンジンの市場導入を難しくしている一因となっています。本研究では、吸気加熱により低温酸化反応を変化させて種々の炭化水素の着火特性の変化を調べ、HCCIエンジン燃焼用の燃料指標の作成を目指しています。

 

3.5             SCR-NOx浄化システムの還元剤の影響

ディーゼルエンジンのNOxの浄化処理として、アンモニアによる選択的触媒還元反応 (SCR: Selective catalytic reduction) を利用する尿素-SCRシステムが実用化されています。しかし、この方法には有毒なアンモニアの漏洩や、寒冷地での尿素水の凍結という問題があります。本研究ではこれらの課題に対処するために、尿素の代わりにジメチルエーテル (DME) を用いるDME-SCRシステムを構築し、その有効性が確認されました。この還元過程において、中間体にメタンとNO2が生成されると浄化率が高いことが明らかとなりました。そこで、都市ガス、軽油などを新たに還元剤として用いた際のSCRシステムの浄化特性について研究を進めています。

 

3.6             雰囲気酸素濃度と燃料の組成がディーゼル噴霧の自己着火特性に与える影響

ディーゼルエンジンではEGRにより酸素濃度を低減すると燃焼状態が拡散燃焼から予混合燃焼へと変化し、低NOx排出で高効率な運転を実現できます。本研究ではその理由を解明するために、ディーゼル燃焼を模擬した高温高圧の雰囲気を作り出すことができる可視化定容燃焼容器を用いて、雰囲気酸素濃度が燃焼温度、すす及びNOxの生成に与える影響を画像処理(二色法)により解析をして調べています。また燃料の組成が予混合燃焼に与える影響についても詳細に解析し、燃焼方法と燃料の組成の両面から高効率で環境に優しいディーゼルエンジンの研究開発を行っています。

 

3.7             次世代ディーゼルエンジン用燃料指標の開発

軽油の着火性指標としてセタン価が用いられています。セタン価はノルマルセタンとヘプタメチルノナンを混合した正標準燃料と計測する燃料の着火性をCFRエンジン(CFR: Cooperative fuel research)を用いて計測されます。このCFRエンジンは現在のディーゼルエンジンにはほとんど用いられていない副室式構造であり、また計測時の酸素濃度などの運転雰囲気条件が今後のディーゼルエンジンと大きく異なることから、同じセタン価の燃料を次世代のディーゼルエンジンに用いてもエンジンの排出ガス特性や燃焼特性が異なるという結果が出ています。このため、環境負荷を低減する次世代のエンジンを導入するにはそれに適した新たな燃料の指標が必要となってきました。そこで、本研究では燃料の構造が明確な薬品レベルの炭化水素を用いて分子構造から炭化水素の着火性を実験と計算より解析し、多成分系の燃料である軽油に応用することを目指しています。

 

3.8             ディーゼルエンジンの燃焼騒音の解析

環境問題の観点からエンジンの排出ガスや燃費ばかりが注目されがちですが、次世代ディーゼルエンジンでは燃焼騒音も大事な研究課題です。本研究ではコモンレール噴射系と過給システムをもつ最新の実験用単気筒ディーゼルエンジンを用いて、エンジンから発せられる騒音の低減を目指しています。エンジンの前と左側にマイクロホンを設置し、エンジンの負荷、回転数、酸素濃度(EGR)、コモンレールによる燃料の噴射回数及び噴射率をパラメータにFFT(高速フーリエ変換)による音の周波数解析を行い、ディーゼルエンジンから発せられる燃焼騒音とその他の機械騒音を分離して、エンジンの運転条件によりこれらの騒音がどのように変化をするか研究しています。

 

4.         主な研究設備

実験用エンジン5台(うち過給エンジン2台)、自動車排気ガス測定装置2台(堀場MEXABest)、高速度カラービデオカメラ(40000コマ/秒)、燃焼・流動解析用CFDコード(AVL FIRE)FTIR排ガス分析計(2台)、FFTアナライザーほか